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2006年5月25日

ホルスト・ヤンセン Horst Janssen

実は昨日の夜、同じタイトルでほとんど書き上げていたのだけど、あることを検索しようとググってそのサイトへ飛んだ途端、なにかソフトのプラグインの問題だろうか、Safariが落ちてしまい書いた物が全て消えてしまった。しばし呆然。一昨日の夜から、どうにもデジタル機器が反抗期である。これは「MacBookを買え」という神の啓示なのか、僕の気持ちを知った既存機種の抵抗なのか。僕自身、機械に対してそんな幻想は抱かないのだけど、2日続けてはちょっとつらい。おかげで早く寝ることができなかった。

気を取り直して、日曜日の「ホルスト・ヤンセン展」の話。
日曜日は朝から天気もよく気持ちのよい日だった。朝から、代車マーチで妻と埼玉県立近代美術館まで出かける。美術館で僕の友人と待ち合わせて、3人での鑑賞。
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この美術館は公園のなかにあり、休日ののどかな光景を見ながら建物まで歩いていく。なかなか雰囲気もよく、自然と気持ちも落ち着いてくる。この美術館は駅からも近く、都内からアクセスの良い美術館のひとつだろう。公園内にあるということで、駐車場がないことが難点か。市営の駐車場が10分ほど歩いたところにあり、少し離れているが、駐車料金も安く(1時間210円)それほど不便は感じない。
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公園内の噴水が涼しい風を運んでくれる。

一緒にいった友人と僕は、美大を出ていて30代という共通項があり、そんな僕らにとってヤンセンはまさにアイドルだった。これまでもヤンセンは日本でも紹介されていて、画集もたくさん出ているが、重要な展覧会は80年代前半に集中している。その頃、僕はまだ中学生だったので、ヤンセンの「ヤ」の字もしらなかった。僕にとって初期の木版画や、鉛筆画は画集の中の存在でしかなかった。
とにかく画集や図録はよく見ていた。高校生、受験生の時は随分影響を受けて、たくさん真似て描いたものである。今でも持っているが、「みづゑ(1968年10月号)」とケストナー協会で開かれた1965年の個展の図録は、僕にとってバイブルといっても過言ではない。
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ヤンセンの自画像を使った巨大なポスターが、僕らを迎えてくれる。

午前中に着いたこともあり、会場は空いていてゆったりと観ることができた。ほとんど貸し切りのような状態である。こうでなくては、きちんと作品と向き合うことができない。60年代の鉛筆画。ストロークのひとつひとつが、形を紡ぐように画面を埋め尽くしている。極めて精緻で抑制の効いたタッチ。凄まじい集中力で描かれていることがよくわかる。尖らせた鉛筆の芯の先に眼がついているように対象を捉えていく。
彼は身の回りのものをモチーフにする。人物も、動物も、植物も、物も。この時代のモチーフは、ほとんどが人物だが、それらは画面の中で歪められ、大きくディフォルメされているが、不快な印象はない。高校生のとき、画集でこの時代の作品を見て僕は衝撃を受け、大好きになったのだけど、あまりに近視眼的な描写にヤンセンは形を正確に描けないのではないかと思った覚えがある。しかし、それは間違いだった。
70年代後半から80年代にかけて、花のモチーフが増えてくる。これらは写実的で正確に描写されているのだけど非常にエロティックだ。鉛筆などの乾いた素材で描かれているにも関わらず、匂いたつエロティシズムがそこにあると感じさせる。植物にとって花は生殖器なのだから、そういった感想を持つことは自然なことだと思うが、ヤンセンの描く花はそれが際立っている。儚さと、性と生のもつエネルギーを、切り取られグラスにいけられた花から描出してみせる。美しい。
ほかにも書きたいことがあるのだけど、長くなるのでまた後日に。

残念だったのは図録がなかったこと。ひょっとしたらこの本「画狂人ホルスト・ヤンセン―北斎へのまなざし」をもとに、企画された展覧会だったのかもしれない。紹介されている作品がほぼ重なる。ヤンセンを俯瞰的に輪郭をとらえるなら良い本だと思う。ヤンセン自身が書いた「私自身について(自叙年譜)」は必見。彼の無軌道ぶり、複雑な人間性を垣間みることができる。

展覧会を観た後は、美術館に併設されたレストランで食事。最近の美術館、博物館のレストランは、非常に良くなっている。値段もリーズナブルで美味い。
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写真は大好きなビールのひとつ、キリンのハートランド。帰りは妻に運転してもらうことで、グラスビールを頼んだ。ハートランドを置いてあると、ついつい飲みたくなってしまう。この瓶は、レストランが水を出すために使っていたもので、デザインもよく、陽光の中で緑が鮮やかで美しい。味も、瓶のデザインも、全て含めて大好きなのである。飲んだことのない人は、ぜひ試してみてください。

ヤンセンについては、また近いうちに。この展覧会、21日の日曜日が最終日だったのが残念。もっと早い段階で観に行って紹介するべきだった。ぜひ、都内で開催してほしい展覧会の一つである。また、観たい!そして欲しいなあ。
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投稿者 corvo : 2006年5月25日 10:51