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2010年1月 3日

『医学と芸術展』森美術館

遡ってのアップ。
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元旦は妻の実家に年始の挨拶に行った帰り、六本木に寄って『医学と芸術展』を観てきた。同僚の先生からも勧められていて、前評判も高い展覧会だったが、実際に非常に面白く観ることができた。元旦ということで、それほど混雑していなかったことも良かった。
ただ、展示の順番や空間の作り方は、もうひとつ分かりずらかったと思う。いくつかのテーマに分かれており、それぞれに現代作家の作品も混じっているのだけど、そのコントラストがうまく見えてこなかった。それ以上に、医学がまだ黎明期であったころの、様々な器具や模型やスケッチなどに魅力的なものが多かった。純粋に知りたいという欲求が具現化されており、医学的に不正確なものであっても美しさと迫力を感じることができた。
今回、最大の収穫はジョン・ハンターの兄である、ウィリアム・ハンターの『正常位の胎児』の版画を観ることができたことだ。かなりの大判で、非常に詳細に描かれた図像は、残酷な現実を描写しているのにも関わらず、すばらしいデッサン力とあいまって実に美しかった。
他の展示では、義手や義足の進歩、装飾を施された医療器具、実用と美のぎりぎりのせめぎ合いが非常に興味深い。
僕が現代作家の作品で一番好きだったのは、ヴァルター・シェルスのシリーズだ。人間の生命の最後の炎をともした表情と、その炎が完全に消えてしまった物質としての顔を撮影し、写真作品として展示していた。余命幾ばくもない人の肖像写真を撮り、亡くなった直後にさらに撮影をするという、本人や遺族への説得に多大なエネルギーを使うであろうそのコンセプトは、老人の後を付け回した逸話のあるレオナルド・ダ・ヴィンチや、絞首刑場から死体を奪い合ったジョン・ハンターの時代を彷彿とさせるが、現代においてはより大きな意味を持ってくる。生と死を冷徹なまでに見つめた、非常に説得力のある作品だと思う。

2月28日までの会期なので、また何度か足を運んでみようと思っている。おすすめの展覧会です。

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投稿者 corvo : 2010年1月 3日 23:29