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2005年12月 3日

画狂人 北斎

金曜日は講師の帰り、夕方に都内で出版社との打ち合わせ。具体的に何か決まっていての打ち合わせではなかったのだけど、実現できそうなプランがいくつか出てきた。面白い本が出来そうだ。
その後、上野の東京国立博物館でやっている「北斎展」へ向かう。この展覧会、昨日までその存在を知らなかったというていたらく。最終日が4日日曜日ということもあって、あわてて行くことに決めたのである。幸い金曜日は夜8時まで開館しており、夕方からでも見ることが出来る。多少、混んでいるかもしれないが、昼間ほどではないだろうと高をくくっていたのだが、6時40分頃博物館に着いてみると「20分待ち」のアナウンス。半信半疑で平成館に着いてみると、外に並ぶ列は短い。ところが玄関を通って中へ入ると、延々と蛇のように行列が続いている。
当然、展示会場に入ってからもかなりの混雑である。最初は柄にもなく列に並んで、おとなしく順番を待ちながら見ていたのだが、とてもじゃないが全て見終わる速度ではない。まさに牛歩。
途中からしびれを切らし、比較的空いている展示物から見ていくことにする。おもしろいことに肉筆画の前は比較的空いている。これが見たかったのだ。冨嶽三十六景などの有名な版画の前は、ひとだかりでどうにもならない。それよりも肉筆画に限る。まさに北斎の手の動きが、画面に結晶化されているのである。驚くほど保存が良い物が多い。ある程度の修復もなされているのかもしれないが、ついさっきまで描いていたような瑞々しさがある。なんと自在な運筆だろう。
実はこれまで不勉強で、北斎をまとめて見たのは初めてであった。まさに「画狂人」。恐るべきは、最晩年の作である。衰えるどころか、その筆力はますます高みへと昇っていこうとしている。とても齢90の老人の手によるものとは思えない。
僕にとっての東洋美術最高のスターは、曽我蕭白であった。それは今も変わらないが、葛飾北斎も同じく傑出した存在であることを再発見した一日であった。

この展覧会は世界中から集められたコレクションで構成されている。ざっと見ていただけでも、ホノルル美術館、シカゴ美術館、メトロポリタン美術館、ベルリン美術館、ベルギー王立美術歴史博物館、ボストン美術館、ケルン東洋美術館、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館、アムステルダム国立美術館、大英博物館等々・・・・・。複雑な気分になる。もちろん日本にもたくさんの良質なコレクションが残されている。しかし、海外へ流出している傑作も数多い。前述の曽我蕭白もその一人である。
もっとどうにかして守れなかったのだろうか。バブルの時、買い戻すことはできなかったのだろうか。そもそもそういった動きはあったのだろうか。
日本人の手になる世界的遺産を、日本で味わうことが出来ない不幸に、美術教育も含めた根の深い問題を感じるのである。
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投稿者 corvo : 2005年12月 3日 00:39