STUDIO D'ARTE CORVO

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update 2020.05.10

満田晴穂のウズラ

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すでに作品展を訪れたのが二週間前、そして昨日その展覧会は終ってしまった。『満田晴穂個展 ZIZAI』は小さな作品でありながら、その場と空間に影響を与える圧倒的な存在感で、観るものを魅了する展覧会であったと思う。その中でもひときわ眼を引いたのがウズラの自在置物であった。

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通常、自在置物は昆虫などの外骨格生物、鱗などをもった爬虫類、魚類などが、そのモチーフとされる。しかし、今回の『鳳・凰』と名付けられたウズラの骨格像は、内骨格を再現したものである。これがどれほど画期的なことか考えてみたい。
我々も内骨格生物だが、今の姿勢を保っていられるのは、筋肉や靭帯などによって関節を固定し制限を加えているからである。骨格だけでは姿勢を保つ事も、関節を保持することもできない。外骨格生物である昆虫などは、内部の筋肉が失われても関節が外れることはないし、適切に処置をすれば姿勢を保つ事も可能だ。博物館などに展示されている骨格標本も、基本は固定された状態で、それぞれの関節を動かして姿勢を変化させることはできない。

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ところが、この『鳳・凰』は関節を動かして、さらに立つ姿勢を保つことができる。そして、もっとも驚くべき事は、それぞれの関節の可動範囲をあまねく再現していることである。これによって生きた状態の骨格を再現し、さらには様々なポーズをるけることが可能になる。これを手の中で遊ぶ事ができるのは、本当に楽しいし、骨格の動きを理解する上でも有効である。とはいえ一品もののアート作品。おいそれと手の出せる価格ではない。しかし、今回の作品にはただただ関心するばかりである。当初、ウズラの骨格を作ると聞いたときには、自在置きものとの親和性の低さに、その完成をいぶかしがったものであるが、現実にそれを眼に前にすると、そんな杞憂はふっとび頭を垂れるしかなかった。
彼が今後どのように自在置物を展開していくのか目が離せない。

素振り

球技などのスポーツにおいて素振りは重要なトレーニングのひとつである。正しいフォームを繰り返すことで、理想的なスイングを実現することにつながる。毎日1000本とか繰り返せば、それなりに素晴らしい結果がついてくるかもしれない。しかし、それはあくまでも「素振り」ではということにすぎない。野球であればどんなコースにどんな球種がくるのか?どのピッチャーを想定しているのか?右投げか左投げか?様々な要素を組み合わせて、イメージトレーニングとともに素振りをするなら、何も考えない1000本の素振りよりも、考え抜いた10本素振りのほうが、おそらく効果的だろう。僕はただの野球好きで野球選手ではないので確かなことは言えないが、デッサンやクロッキーの場合であれば。ただ無為に枚数を重ねるより、工夫して考え抜いて完成させた1枚に勝るものはないと断言できる。
枚数をたくさん描いたから向上するか?と問われればイエスでもあるしノーでもある。枚数を描くことだけを目的としてしまうのは問題で、それは自己満足にすぎない。制限時間に区切られて完成しないままに枚数をを重ねるのも、あまり効果的とはいえない。受験デッサンの一番の問題はここにある。試験という限られた時間のなかで結果を出すには、段取り、ペース配分などが要求されるが、そればかりが洗練されていっても、6時間なら6時間、12時間なら12時間で達成できる結果しか残すことができない。手を速く動かすにも物理的な限界がある。人間1人ができる仕事量に大差はないだろう。そんなトレーニングを繰り返しても、完成と言える領域まで1枚を昇華させることは困難だ。モデルを使う場合は時間的制約がどうしてもあるが、石膏であれば何時間でも、何日でも、何ヶ月でも、何年でもポーズを取り続けてくれる。石膏デッサンは古いトレーニング方法と言われるが、1枚をじっくり完成させるのには適した方法のひとつである。
とはいえ短時間で描けるスキルも絵描きにとっては重要である。クロッキーはそれらを養うのに最適なトレーニングだが、短い時間であっても常に1枚を完成させる意識を持たなくてはいけない。5分でできること、10分でできることは、自ずと変わってくる。いつも同じやり方をしていたのでは、5分は10分の半分の完成度しか出せないことになってしまう。それではいけない。5分で出せる最大限の効果を考え抜かなくては。
考え抜いた素振りを毎日1000本もできれば、それは素晴らしい結果につながるかもしれないけど、さすがにそれはちょっと難しい。そして、もっとも大事なことは苦行になってはいけないということ。苦しさは何も担保してくれない。描くのが楽しくてしょうがない。どんなに描いても疲れない。そんな境地に達することができたら理想的かな。描くことを、作ることを楽しみましょう。