STUDIO D'ARTE CORVO

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update 2020.05.10

素振り

球技などのスポーツにおいて素振りは重要なトレーニングのひとつである。正しいフォームを繰り返すことで、理想的なスイングを実現することにつながる。毎日1000本とか繰り返せば、それなりに素晴らしい結果がついてくるかもしれない。しかし、それはあくまでも「素振り」ではということにすぎない。野球であればどんなコースにどんな球種がくるのか?どのピッチャーを想定しているのか?右投げか左投げか?様々な要素を組み合わせて、イメージトレーニングとともに素振りをするなら、何も考えない1000本の素振りよりも、考え抜いた10本素振りのほうが、おそらく効果的だろう。僕はただの野球好きで野球選手ではないので確かなことは言えないが、デッサンやクロッキーの場合であれば。ただ無為に枚数を重ねるより、工夫して考え抜いて完成させた1枚に勝るものはないと断言できる。
枚数をたくさん描いたから向上するか?と問われればイエスでもあるしノーでもある。枚数を描くことだけを目的としてしまうのは問題で、それは自己満足にすぎない。制限時間に区切られて完成しないままに枚数をを重ねるのも、あまり効果的とはいえない。受験デッサンの一番の問題はここにある。試験という限られた時間のなかで結果を出すには、段取り、ペース配分などが要求されるが、そればかりが洗練されていっても、6時間なら6時間、12時間なら12時間で達成できる結果しか残すことができない。手を速く動かすにも物理的な限界がある。人間1人ができる仕事量に大差はないだろう。そんなトレーニングを繰り返しても、完成と言える領域まで1枚を昇華させることは困難だ。モデルを使う場合は時間的制約がどうしてもあるが、石膏であれば何時間でも、何日でも、何ヶ月でも、何年でもポーズを取り続けてくれる。石膏デッサンは古いトレーニング方法と言われるが、1枚をじっくり完成させるのには適した方法のひとつである。
とはいえ短時間で描けるスキルも絵描きにとっては重要である。クロッキーはそれらを養うのに最適なトレーニングだが、短い時間であっても常に1枚を完成させる意識を持たなくてはいけない。5分でできること、10分でできることは、自ずと変わってくる。いつも同じやり方をしていたのでは、5分は10分の半分の完成度しか出せないことになってしまう。それではいけない。5分で出せる最大限の効果を考え抜かなくては。
考え抜いた素振りを毎日1000本もできれば、それは素晴らしい結果につながるかもしれないけど、さすがにそれはちょっと難しい。そして、もっとも大事なことは苦行になってはいけないということ。苦しさは何も担保してくれない。描くのが楽しくてしょうがない。どんなに描いても疲れない。そんな境地に達することができたら理想的かな。描くことを、作ることを楽しみましょう。