STUDIO D'ARTE CORVO

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update 2020.05.10

これからの美術解剖学

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前期のHiroさんの美術解剖学特別講義が、昨日で終了した。次回の授業は後期からである。2年前から2年生対象に座学『美術解剖学入門』を開講していて、連続した内容としてカリキュラムを組んでいる。ただし、『美術解剖学入門』は必修授業だが、Hiroさんの特別講義は選択制である。座学でも重視しているのは、名称などの知識を得ること以上に、形態と構造を理解し記憶することである。そのため、講義中も常に手を動かすことを求めている。骨格図をトレースし、レイヤーに分けたトレーシングペーパーに筋肉図を描いていく。骨のどの部分から始まり、どの部分で停止するのか。その筋肉をはどんな運動のために使われるのか。体表に影響を与える筋肉を中心に講義を進めているが、全6回の授業ではおのずと限界がある。あくまでも入門編ではあるので、より高度な内容を習得したい学生のために選択の授業を準備しているが、その部分を将来的に、さらに強化していきたいと考えている。
現状では美術解剖学を深く追究したいと考える学生は少ない。自分の表現と美術解剖学をどうつなげるかという部分について、こちら側のプレゼン不足も原因のひとつだと考えられる。何もリアルに描くことだけに美術解剖学が有効なのではなく、デフォルメされた人体、動物にも応用できる。
スケッチを中心にした現在の手法では、立体的な解剖学的把握が困難な面がある。例えば肩甲骨から上腕骨につながる大円筋は上腕骨の前方(腹側)につくが、棘下筋は後方(背側)につく、それぞれ上腕骨を違う方向にまわす役割を担うが、それを平面だけで理解し、実際のモデルの肉体から読み取ることはかなり難易度が高いと思われる。トレーシングペーパー上でレイヤーを変えていくだけでは実感できない、3次元の空間の中での交差、ねじれなどをどうすれば理解できるか。実感として得ることができるか。おそらく3DCGも補助的な役割しかなく、動物の解剖を通して観察したり、粘土で立体を作ったりといったトレーニングが必要になってくるだろう。それを実現できるようなカリキュラムを、近い将来、実施したいと考えている。
僕がいまやっていることは、何も特別なことはなく、美術解剖学という伝統的な学問大系を、どう学生に伝えるかを考えてきた結果である。まだ足りない部分も多く、急務なのは理想的な教科書を作ることだ。そして、後進を育てること。大学院のない今の本務校でどこまで実現できるかはわからないが、理想に向かってできるだけのことはしてみたいと思っている。